STM32 Primer2をDigiKeyに発注してしまった
運命の糸にあやつられて
電力ロガーの完成で、Xbeeのプロジェクトは一応一段落し、ブログ更新の間が空いた。あれから各部屋のブレーカーにセンサーを付けて電力を測定している。これはこれで面白いのだが、とりたてて記事に書くほどの新事実は出てこない。我家に2つあるウォシュレットの節電手法が機種によって違うことや、ハブやルーターは思ったほど電力を食わないことなどがわかっても、自分ならともかく他の人はそれほど面白がって読んではくれないだろう。ここは電子工作のブログだ。
ということなら、この10日間で起きた最大の出来事は、タイトルのように、これまで買うのを我慢していた、Cortex-M3チップの評価ボード(というより評価モジュール)STM32 Primer2をDigiKeyに注文してしまったことだろう。
STM32 Primer2は、128×160のタッチパネル付TFTディスプレイ、SDカード、USB、赤外線トランシーバーなど盛りだくさんのペリフェラルがついた携帯電話サイズの、STM32F103Eプロセッサー(フラッシュ512K)の評価モジュールである。これだけついていて何と¥6000台の値段である。
一年前の雑誌付録のSTARMプロセッサー基板を動かそうとして、あれこれ調べているうちに見つけた。STARMでお世話になった「ねむい」さんも入手されて色々実験されている。最近は秋月でも売り出した(現在は売り切れのようだ)。ARMプロセッサーは付録基板だけでなく自前で買ってみようと一時ウェブで探したことがあるが、同じようなスペックの基板はあっても安くても¥10,000近くはした。
BeagleBoardもそうだが、どうもこういう破格の値段と言うのに弱い体質である。しかし、目の前にまだまだやりたいことがあるのにこれ以上店を広げると、BeagleBoard同様、動かしてみるだけで先に進めないことになるのは目に見えている。理性で物欲を抑えていた。
それでも、DigiKeyで市販より少し安く売り出されているのを見つけた時は、このあいだの電力測定用のICチップと、雑誌付録のLPC2388基板のイーサネットボードのPHY層トランシーバーICの送料無料化のために、もう少しのところで買ってしまうところだった。このときも必死の思いで、クリックするのを止めた(09/9/17の記事)。
しかし、遂にこれを止めることが出来ない事態が来てしまった。DigiKeyに注文したいチップがさらに出てきたからである。
私は運命論者ではないが、当研究所の電子工作のテーマは、何か見えない糸に結ばれて次々にやることが決められていくような気がしてならない。そもそもの始まりが、はずみで買ったDACチップ(BU9480F)である。H8で16ビットDACを動かせると勘違いし、照れ隠しに鈴商で16ビットDACを買って、結局ポータブルのリニアPCMプレーヤーまで作るところまで行った。
さらに次のプリント基板の2号機制作のきっかけは、千石の改装セールで任天堂のDS-Liteの交換用リチウム電池を格安で手に入れた直後、秋月でたまたま見つけた小さなケースにまるで測ったかのようにこいつがピッタリ納まったことである。ちょうどそのころストロベリーリナックスが、このケースに入る小さな液晶モジュールを売り出したことも後押しした。
こんどのSTM32 Primer2評価モジュールは、あくまでもDigiKey通信販売の送料無料化のゲタ(¥7500以上無料)にすぎない。欲しかったのは、以下に紹介する3つのICである。しかし、何か運命のような気もする。この評価モジュールがまた別の電子工作の世界を持ってきてくれるかも知れない。
リチウム電池の充電用ICチップMCP73831(11/25/09)
新たに必要になったのは、リニアPCMプレーヤーに使うリチウム電池充電用のICチップである。リニアPCMプレーヤーは色々なところで自慢したのは良いが、次から次に「欲しい」という人があらわれ、さらに作らなければならない事態になった。そのためには電池充電用ICが必須である。素人にリチウム電池を充電させるわけにはいかない。
今度のプレーヤーは、最初のうちは面白半分の反応しかないが、実際に音を聞かせると、例外なく目の色が変わる。WAVファイルの音の良さ、自然さにみんな驚いてくれる。市販のポータブルプレーヤーがMP3などの圧縮オーディオに特化し、WAVファイルを直接聞くことが少なくなっためだろうか。
オーディオマニアから見れば、一昔前の、ディジタルフィルターもない、単純な2倍オーバーサンプリングの廉価版のDACの音である。そんな人から見れば原始的なデジタル再生装置だが、簡単なLPFだけでとても素直な音になっていて、MP3などに較べれば音の格が違うことは明らかだ。
市販のポータブルプレーヤーでも、今はたいていの機器が、WAVファイル形式を再生できるはずで、聞こうと思えばCD音質の音が聴けると思うのだが、音を楽しみたい人が必ずしも機械に強いわけではなく、設定をWAVにすることが出来なくてMP3などの圧縮ファイルで聞いているからではないかと思う。
それに、SDカードをサポートする機種が少なく、限られたディスクスペースにWAVファイルを入れると曲数が限られてしまう。メーカーとしては宣伝しにくい。デジカメのいたずらな高画素数競争のようなものだ。しかし、今やSDカードなどのメディアは8Gや16Gなど当たり前で値段も以前とは信じられないくらいの安さだ。これを利用しない手はない。
そんなことで、面白半分の人も含めれば10人近い人から注文を受けた。いつまでと期限は切られていないが、これは大変なことになった。次のOlimexは、2枚まとめて注文しないとさばけない。
LPCMプレーヤー2号機追加制作には、気がかりな問題がある。リチウム電池充電用ICの価格が高すぎるのである。これまでのLPCMプレーヤーの中で一番高価なICチップは、CPUでもDACでもなくて、充電用のICチップ(LTC4054 ¥440)である。
千石でいつでも買えるので入手性は良いのだが、CPUのMega328(何と秋月では¥250しかしない)の2倍近くするのは何とも抵抗がある。代替品をウェブで探すと充電用ICは沢山のメーカーが出していて、いずれもLTC4054より値段が少し安いが(\200前後)、アマチュアが1個から買える製品が殆どなく入手性が悪い。
ところが、たまたま、電子工作の世界では有名な後閑さんのサイトでマイクロチップ社のリチウム電池充電ICファミリーを見つけ、DigiKeyで検索してみたら、MCP73831というチップが1個から買えるではないか。しかも値段はたったの¥68、10個まとめれば¥56である。
あわてて、データシートを確かめる。おお、今使っているLTC4054と殆ど同じ機能だ。何だ、何だ、どうしてこんなに安いのだ。最大充電電流は少し低い(800mAが500mA)が、トリクル充電から始まって、定電流、定電圧、シャットダウンの各ステップに何の違いもない。
さあ、これは買うしかない。これまで欲しかったのは、PHY層のイーサネットIC、DP83848C(雑誌付録基板LPC2388のLANインターフェース)と、電力測定用のIC(ADE7753)という不要不急のチップだけだったが、今度はLPCMプレーヤー後継機に必須の部品である。
DigiKeyにアクセスする。まずSTM32 Primer2のページへ行く。おおお、値段はもっと安くなっている。¥6000を割って¥5991だ。円高が進んでいるからか。発注ボタンを押し、イーサネットICに進む。おやあ、お目当てのDP83848Cは売り切れだ。このチップは参考情報が多いので第一候補にしていたチップだ。それではもうひとつのPHY層チップ、Micrel社のKSZ8721はどうだ。いかん、ここも売り切れている。QFPでなくてSSOPのチップは在庫があるようだが、0.5ミリピッチの48ストレートピンは半田付けはともかく、ピッチ変換基板が、えらく大きくなってしまう。
あちこち調べているうち、DigiKeyは在庫が0でも注文が出来ることを見つけた。あとから別送させても送料は一回分ですむということだ(何度も確かめた)。これは助かった。どうせイーサネットICはすぐには使わない(えない)。かえって都合が良い。
DP83848C(\572)を2つ、ADE7753(\461)を2つ、MCP73831(すZさんのページを参考にACタイプ)を10ヶ、それにSTM32Primer2、あわせて¥8000少々と無事、送料無料ラインを越えた金額になった。胸を張って発注確定ボタンを押す。
イーサネットPHY層トランシーバーDP83848C
これは、今年のインターフェース誌5月号の付録についたARMプロセッサーLPC2388基板のイーサネットインタフェースになるICチップである。前の記事(09/5/4)にもあるが、ショップとタイアップして売り出されたLAN&SDカード拡張基板が余りにも高価なのに反発して、意地でも自前で作ろうと考えている計画の一環である。
LPC2388は、イーサネットのインターフェースは、TCP/IP層までハードで持っているが、その下のプロトコルの実装は別のチップを用意しなければいけない。電気物理(PHY)層は、種類が多く、技術進歩が激しいので、CPUコアに入れて汎用性がなくなることを考慮したものだろうが、アマチュアには使いにくい。
付録とタイアップして売り出された拡張基板は、LANとSDカード、それにUSBホストのソケットがついて¥6800である。だいたいUSBホストは別のコントローラーがついているわけではなく、ソケットだけで本体の基板と重複するし、SDカードのインタフェースなどプルアップ抵抗をつけるくらいで基板にする必要もない。抱き合わせで値段を上げようという姑息さが気に入らない。それに小売の部品代から考えてもこの値段は法外というしかない。
同じようなことを考えている人は他にもいて、ブログに問い合わせのコメントが入っている。この拡張基板に載っているPHY層のトランシーバーはLAN8187というチップで、DigiKeyでは800個単位でなければ入手できない。PHY層だけのチップは主流は今やギガビットイーサに移り、アマチュアが何とかなりそうな10/100Mbps帯は、殆どが生産停止と思われる製品ばかりだ。
それでも、3種類くらいはウェブでヒットしたが、前の記事にあるように買うまでには至らなかった。ナショセミのDP83848Cは、ARMのコンパイラーで有名なKeil社が売り出しているLPC2388の評価ボードMCB2300 に使われており、回路図が公開されているので作れそうだ。
いずれにしても、今年の4月以来の懸案だ。これまでの工作と違ってハードソフトとも、相当高度な技術が要求されると思う。データシートを見てみたが殆ど理解出来なかった。しかし挑戦しがいのある十分な高さだ。夢があるだけでも良い。ただ、LPC2388でイーサネットを実現しても次に何をするのかが決まっていないのが最大の問題だ。まあ、これは聞かないお約束ということで。
AC電力測定ICチップADE7753
これも、どちらかと言えば、弾みで欲しくなったICである。今すぐに必要なわけではない。電力測定を検討していた以前の記事(09/9/4)にも詳しく出ているが、現在のXbee電力ロガーのセンサーは非接触のCTセンサーで電流しか測っていない。電圧は常に100V正弦波、電圧と電流の位相差ゼロ、つまり力率100%とみなして電力を測定している。
白熱灯や、電熱器などの抵抗負荷なら問題ないが、蛍光灯、スイッチング電源や、掃除機、電気冷蔵庫などのモーター(誘導)負荷は、波形がパルスになっているだけでなく電圧との位相差が出て正確な電力は電流だけでは測れない。
アナログディバイスのこのICは、交流のこうした複雑な電圧と電流を連続的にサンプリングし、瞬間電力を積分して正確な電力量をデジタルにしてシリアルラインに出力するというすぐれもののICだ。
電圧を測らなければならないので、今回は諦めたが、今の電流だけ測るロガーが物足らなくなったら、これを使って正確な電力を測ってみたいと考えている。データシートをよく読んだら、AC入力は差動入力になっており、デジタル部のグランドとは分離が出来るようだ。これなら少し安心である。
面白いもので、手に入れるだけで今までの胸のつかえがおりたような良い気分になるから不思議だ。ま、以上2つのICは、暫くは出番が来ることはないだろう。大切に棚の奥にしまっておこう。がた老AVR研究所には、雑誌付録のFPGA基板2枚、320×240の5インチTFT液晶ディスプレイ、ARM基板2枚、NECのDACチップ等々、出番を待っているディバイスがまだ沢山ある。
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