遂にSparkFunガイガーカウンターの不具合を解決した
とうとう、SparkFunのガイガーカウンターキットの不具合(と言って良いだろう)の原因を解明した。もし、同じこのキットをお持ちの方は、この記事の最後に出てくる改修を出来る限り早く実施された方が良いだろう。さもないと、虎の子のガイガーミュラー管LND712を失う可能性が高い。
なぜ高電圧のまま出荷されていたのか理由がわかった(8/22/2011)
SparkFunのガイガーカウンターキットの高圧部は、高入力抵抗の電圧計でも1500V近く、分圧器(1GΩ)を使ったオシロでも同じくらいの電圧がかかっていることが確認された。2種類の測定で同じ値だ。この電圧に間違いないだろう。このキットのガイガー管(以下GM管)はLND712で定格は500V、この電圧は余りにも高すぎる。
Sparkfunのフォーラムには、以前の記事でも紹介したように、900V以上電圧が出ているよというユーザーの投書があり、Sparkfunから調べておくという返事があってそのままになっている。
しかし、発振回路を調整して500Vに下げると、こんどは放射線パルスを感知しない。ガイガーカウンターとしての機能を果たさない。仕方がないので、元へ戻すと、高圧部から、異音が発生して電圧が断続的に低下し、正常な観測が出来なくなる。このブログにも同じような悩みを持っている人からのコメントがある。
こちらで最初、高圧がでなくなったのは、当方の原因(配線パターンに接着剤をつけた)のようだが、電圧が高すぎることについては全く思い当たる節はない。フライバックトランスの出力は、オシロで見た限りでは、p-pで160~180V、3倍圧整流回路を通って、500V近辺になるはずだが、ウェブ情報などによると、フライバックトランスによる発振は安定でなく共振すると突然上がったり下がったりすると言う。
そのため、Sparkfunがお手本にしたらしい回路には、ツェナーダイオードを直列にした電圧制限回路が入っており、一定の電圧以上では、ドライバーに制限がかかって出力が下がるようになっている。ところがSparkFunの回路は、なぜかこの部分が省かれている。
いずれにしても、定格にすると機能しない。高圧に戻すと検知はするものの、異音が出て電圧が下がる。進退窮まって、もうSparkfunのキットは諦めようと思っていた(前記事にはそう書いた)ときのことである。
GM管からの波形をオシロで見るともなしに見ながら、ふと、このGM管の放射線検知によるパルス波形が、これまでのウェブで見たお馴染みのパルス波形でなく、えらく派手なのに気がついた。
ふーむ、ウェブで見るパルスは一回限りで、こんなに20ms近い連続したパルスではない。500Vではこのキットでは検知しないが、もしかしたら、このGM管はパルスを出していても回路が認知していないだけなのではないかという感じがしてきた。
500Vに電圧を下げる。前のようなパルスは発生しない。つまり検知しない。オシロのスキャンの時間を一旦長くしておいてから、様子を見る。おっ、何か非常に短いがパルスが出ている感じがする。少しづつスキャン時間を短くしていく。そうだ、1現象ではなく、GM管から引き出されている信号出力にもオシロをかけてみよう。さらにトリガーをAutoでなく、検知したらそこで止まるNormalモードにしてみた。
ビンゴ!である。トランジスターのベースには綺麗なパルスが入っているのが確認できた。間隔は、環境放射線の線量に近い間隔だ。なーんだ。ちゃんと検知しているではないか。それなのに何故マイコンの方には伝えられないのだ?
回路図を見る。おおお、検知トランジスターのコレクターに4.7μFのコンデンサーが入っている。今まで気がつかなかったけれど、こんなに大きな時定数では、GM管の短いパルスは吸収されてしまうはずだ。
わかったぞ、わかったぞ。このコンデンサーを使っていると言うことは、さきほどの派手なパルスを1パルスにするための定数だったのだ。今までの事実の断片が、次々につながって確かなストーリーが出来上がっていく。全部の謎がずるずると解けていくのがわかる。このコンデンサーの定数が動かぬ証拠だ。
Sparkfunの開発者は、何らかの理由で電圧制限回路を省略し、電圧が1500V近くに上がっていることに気づかず、そのときのGM管の高圧でのパルス挙動を通常のパルスと勘違いし、このパルスで1カウントになるように、このコンデンサーを調整したのだ。
恐らく内部抵抗の低い計測器で高圧を測ったのだろう。高圧部の測定値が実際よりかなり低く、フライバック発振の電圧を見ているので3倍圧整流回路を通っても500V以下と確信していたに違いない。
1500V近辺のLND712の放射線感知の波形は、多数のパルスが長時間でる(20ms以上)。設計者はこれに合わせて、信号検知の時定数を大きくし、結果として、通常のGM管の反応の時はパルスを拾わなくなってしまった。本来のGM管の反応パルスは、非常に短く(100μs程度)、この定数では隠れてしまう。
アメリカでは余り問題にならず、日本のユーザーで「動かなくなった」という声があるのは、アメリカが日本に較べれば、圧倒的に湿度が低いため、数倍の電圧でもおかしくならなかったのだろう。
日本の湿度はアメリカでは想像できないほど高い。これによって、LND712の絶縁が限度を越えてしまった可能性が高い。カンッカンッと音がしていたのは、定格の3倍近い電圧を喰らってリークしているGM管の悲鳴だったのだ。危ない、危ない。
謎が解ければ、対処の方法は簡単だ。基板上の4.7μFのコンデンサーをはずし、少し極端だが、0.1μFに減らしてみる。よーし、良いぞ、500Vでも、しっかり反応をするようになった。オシロでみると少し少なすぎてパルスを余分に集めてしまいそうだが、これはあとで調整できる。
500Vに下げれば、当然GM管からは全く異音はしなくなる。良かった。GM管は壊れていなかった。それにしても、GM管というのは丈夫な機器のようだ(冷戦という戦時仕様だからかも)。
Sparkfunのガイガーカウンターキットの修正方法(8/23/2011)
Sparkfunのこのキットを持っている人は、早急に次に説明されている部品を交換したほうが良い。そうでないと、GM管がこわれるか、測定不能になる。
(1)発振回路のC2の10μFを1μFに替える。
これで、GM管の電圧は、1500Vから600V程度に下がる。このままでは、パルス
を拾わ ないので、次の(2)を行う。
(2)SIGをとりだすバッファートランジスタコレクタにあるC9 4.7μFを0.1μFに下げる。
これでLND712の正規パルスを拾うようになる。ただし、この定数は調整する
必要があるだろう。余り小さいと主パルスに付随する弱いパルスを独立した
パルスとして拾ってしまう可能性がある。
(1)は1μFより、0.5μFにした方が良いかもしれない。( 1μでも定格の500Vを超える)。一番良いのは、前回記事の海外サイトのオリジナル回路のように、ツェナー(またはバリスター)で高圧電圧を測りフィードバックして制御するのが一番確実だ。ブロッキング発振は、調整が難しい。原作者はそれを知っていて電圧制限回路を加えていた。これならツェナーダイオードで設定した以上の電圧はかからない。
面実装の部品を取り外すのは通常では難しい。10μFのチップコンデンサーは2012クラスで、この程度なら、半田ごて一本で辛うじてはずせると思うが、4.7μFのコンデンサーは大きくてパタンが離れているので、はずすのは苦労するだろう。半田ごて2本あればとれると思うが、簡単にとるには、所長の愛用しているサンハヤトの低温特殊ハンダをお勧めする。少し高い(千石電商で¥4200)が、こういう表面実装部品のとりはずしはうそのように簡単になる。
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コメント
phforさん、コメントありがとうございました。
SparkFunが改良型を出したのですね(SEN10742)。
高圧を落とすスイッチが耐圧の高そうなものに変わっています。
おやあ、回路は全く前と変更がありませんね(カタログに添付されたV21-2011/7/7版)。
これでは、前と全く同じように雪崩のようなパルスのオーバーシュートを利用した検知回路が生きたままです。
もし、お求めになったのなら、この部分は修正されることをお勧めします(SparkFunとしては、回路を変更したくないのかもしれません。Recallものですからね)。
投稿: がた老 | 2012年6月 2日 (土) 23時18分
本家のコメント欄にSparkfunの中の人が降臨して、英語で同様の指摘がされたと言ってますね(二ヶ月前)
Notes about Sparkfun Geiger Counter http://www.spectron.us/SM6FIE/Electronics/SparkFunGm/Notes_about_Sparkfun_Geiger_Counter.pdf
コメントには「次のリビジョンで直すよ」と書いてありますが、これから私が買う個体は直っていると嬉しいです。
投稿: phfor | 2012年6月 2日 (土) 22時00分
がた老さま
記事を参考にして回路の修正を行い、無事にガイガー管の駆動電圧を500V付近にすることが出来ました。
ありがとうございます。
おかげさまで、放射線観測所を立ち上げることが出来ました。
http://d.hatena.ne.jp/ntaka206/20120121
私もC2は0.5uF(0.1uFx5)にしました。
投稿: ntaka | 2012年1月23日 (月) 17時50分
あらためて回路図と、http://www.techlib.com/science/geiger.html を確認しました。
発振回路はブロッキング発振ではなくて、簡単なコンデンサの充放電によるもの(コイルはなくても発振する)ですね。それと高圧側のダイオードによる倍電圧回路ですが、3倍と思い込んでいましたが、2倍のようです。
この倍電圧回路の入力(Sparkfun の回路図のOSC1のところの信号)はグラウンドを基準として正の側のパルスしかでない(グラウンドが持ち上がることがない)ので、パルスでC4が250Vに充電される条件なら、C5もC4と同じ電圧になり、C6は、C5の電圧+パルスの電圧で充電されるので、ほぼC6の電圧はC4の倍の500Vになると読めばよいようです。
C6の電圧が、トランジスタの駆動時間(C2)とコイルのインダクタンス、C4,C5,C6の容量、最終的な負荷のバランスで決まり、それぞれ個体差があるので、電圧を制御しているとはいえないのは変わらないですけど。
マルツで売っている 2SC3113-A, RD43Eとかを組み合わせて回路を改造できるかなとも思っていますが、まだ手が動いていません。
投稿: non | 2011年9月 1日 (木) 08時41分
熾火研究所さん、こんばんは。
えーっと、確か、私の秋月のテスター改造か何かで、ご紹介いただきましたよね。ときどき、そちら経由のお客さんがお見えになります。
長文のコメントありがとうございます。こういう謎をつきとめるのが好きで(渋滞に巻き込まれると、すぐ抜け道を探したがる)、つい素人なのに深入りしました。
偶然、うまく行き、少しはみんなのお役に立ったことを喜んでいます。
これからもよろしくお願いいたします。
投稿: がた老 | 2011年8月31日 (水) 22時25分
こんにちは。
多くの人がこの記事で encourage されたと思います。
私はSparkFunのGM計は持っていないのですが、CHANEYのキットと完成品(極小GM管)を持っており、特に完成品のほうはキットよりもマグネチックスピーカーのインピーダンスが低いため電流が常時200mAオーバーで流れる→FETが過熱するという完全な不具合回路でした。回路の特徴(cf. http://www.utsunomia.com/y.utsunomia/quench.html の Fig.7)を活かしつつ有意義な回路(そして低消費電流)にできないかと考え……手が止まっておりますorz
(Twitterで「スピーカーをもっと高インピーダンスな圧電素子にしたらどうだろう」とつぶやいたら「そんなことしたらFETが一瞬で死ぬよ!」と秒殺されました(笑))
CHANEYにしろSparkFunにしろ、元の回路では折角のGM管の性能を全然引き出せてないのが歯痒いところですね…。いい機会なので、私ももう少し食らいついてみる所存です。
投稿: 熾火研究所 | 2011年8月31日 (水) 21時45分
コメントありがとうございました。
>marryさん
CHANEYのキットも、修正しました。このキットはいかにも素人の手作りという感じで、直すのに抵抗はなかったのですが、SparkFunのは本式の基板(一見。その後また不具合を発見)に見えたので信用していました。
>nonさん
そうなんです。ドライバー側の電圧は、180V近辺なので出力はその3倍、500Vあたりと思ってしまいますよね。フライバック発振は、共振するので思わぬ電圧が出るようです。
ただ、1μFでは、私のキットでは、まだ800V近く出るので、0.47μF(400V近辺)にし、検出回路の改善を思案中です。これ、まともに動いていません。
投稿: がた老 | 2011年8月29日 (月) 11時22分
ついでにトランスの高圧側をオシロで見たら 180V, 30μs ぐらいの短いパルスが 2.5ms おきに出ています。
コンデンサ外しには普通のこて1本+ピンセットで問題なしでした。
投稿: non | 2011年8月29日 (月) 06時41分
音とかはしていなかったのですが、コンデンサを交換してみました。
C2を0.47μFに交換したら高圧が低くなりすぎたようで、うまく動作しませんでした。1μFだと動作しているように見えます。テスター(入力抵抗10MΩ)でR7とR8の間の電圧を測ったら260Vです。
線源があるわけではないのですが、波形としては良さそうに見えました。
投稿: non | 2011年8月29日 (月) 06時34分
がた老様
はじめまして。貴重な情報の開示ありがとうございます。とても参考になりました。貴重なLND712を失いかねないですし、測定値にも影響がありそうですね。この手の未校正キットの場合、真の線量値を類推するにはGM管のデータシートに記載のCPM換算グラフが頼りでしょうから。
Sparkfunのキットといい、Chaney ElectronicsのC6979ガイガーカウンタキットといい、アナログ部の回路設計に問題ありのようですねぇ…(-.-)
http://salt.air-nifty.com/salt/2011/04/post-4d93.html
ChaneyもSparkfunも一見すると、まともなキットに見えますし、ちょっと調べた程度では評判もまずまず良さげだったんですけどね。キットを購入する前に、その設計品質を見破るのは難しいように思えます。
最近はパソコンCADとインターネット経由の国際通販によって、素人が美しいプリント基板を安価に手軽に作れる時代になったせいか、基板を見ても設計者の技量が見えにくくなったように感じています。
一見するとまともでも、回路を追っていくと馬脚が見えたりして…(^^)
そんなキットがはびこると、キットに手をだすのが嫌になる人が増えてしまうかも。
今後もときどき参考にさせていただきます。
ありがとうございました。
投稿: marry | 2011年8月29日 (月) 01時45分
みなさん、コメントありがとうございます。
>44歳会社員さん
喜んでいただけたようで、こちらも嬉しいです。
そうですか、SparkFunも気づいていたのでしょうね。
>そら。さん
ご心配ありがとうございました。何とか解決しました。
>jujurouさん
情報ありがとうございました。
いただいたURLが見つかりませんでした。
このサイトは、私も知っています。プロなら確かに、
jujurouさんの言われるとおりでしょうね。
このハンダの紹介をした以前の私のページにもでていますが、このハンダは非常にもろく、しっかり除去しないと衝撃などで簡単にクラックしてしまいます。
ただ、別の半田ごてを用意してまで慎重に行う必要があるかどうかは、意見の分かれるところでしょうか。
自分の作った機械が、激しい振動や、極端な温度差で使用され、そのミッションが重要ならば、もちろんそういう配慮は必要だとは思いますが。
投稿: がた老 | 2011年8月24日 (水) 12時06分
低温特殊はんだを使用される時は、そのはんだ用のこてとスポンジ等を使用して、通常のはんだ付けの時に使用する道具には一切付かないように注意した方がよいらしいです。
一度付いてしまうとそう簡単にはとれないと何処かのHPで見た記憶があります。
一部、記憶をたどってたどり着いた記事のURLを貼っておきます。ご参考まで。
ハンダ付け(半田付け)職人のはんだ付けblog
http://www.soldering-guide.com/archives/50587702.html
投稿: jujurou | 2011年8月24日 (水) 08時21分
おぉ!! 原因が分かって、そして直って良かったです。
すっきりしました。
投稿: そら。 | 2011年8月24日 (水) 06時50分
楽しく拝見させて頂いております。
素晴らしいです。
遂に SparkFun Geiger counter の不具合の原因を
突き止め対処方法まで公開してくださって。
助けられる人は沢山いるんじゃ無いでしょうか。
感謝感謝です。
わたしも相当前(4月頃)にSparkFun の
ガイガーカウンタをオーダーして入荷待ちです。
今日8/24 の入荷時期の回答として、SparkFun より。
We are still waiting for
the next shipment in December.
Most of the stock from these shipments
go towards making the Geiger boards
so it is hard to replenish the back orders.
他の方の SparkFun 社とのやり取りにも
次回入荷のものは新バージョンとなる
(何かを対策した?)
なんてのがありましたので、色々と問題があった
のかと思ってしまいます。
投稿: 44歳会社員 | 2011年8月24日 (水) 04時38分