JJY電波を見るため、RF(高周波)の世界に踏み込む
当研究所で最後まで残った未踏のフロンティアはRF(高周波)である。実はRFには思い入れがあって、何となくこれまで避けていたのだが、ひょんなきっかけでどっぷり踏み込むことになった。
前にも少し触れたと思うが、所長は60年以上昔の中学生の頃、アマチュア無線に熱中していた。電話級が出来る前の2アマの国家試験は一次が合格し、二次は修学旅行と重なったため(試験は受け直せても修学旅行は一度きり)受けずにそのままになっている(当時は一次試験合格有効期間が10年あった)。
修学旅行で秋葉原に行き、ガード下の真空管屋さんで、807と5U4G(パワー出力管と整流管)を買い込み、後生大事に持ち帰った記憶がよみがえる。結局、電源トランスが高くて買えなくて、送信機を自作するところまで行かなかった。
その代わり、6ZP1(いや懐かしい)という一般ラジオ用の出力管で、近くの悪友と勝手に電波を飛ばし遊んでいた(豆電球にループ線をつけ、出力コイルにかざすとマイクの音に合わせて明滅し楽しかった)。そんな今になっては時効になった様々な思い出がある。
そのうち受験勉強が忙しくなって、結局、無線免許はとりそびれた。そんなトラウマがあるのか、電子工作を始めてもこの世界はあえて封印していたのだが、JJYの電波時計リピーターを開発しているうち、遂に、RFの世界に再び入り込む誘惑に耐え切れなくなってしまった。どんな状況になったか。詳しくは以下の作業記録で。
スペアナが欲しいが高い(10/1/2018)
そもそもは、JJYの標準電波がどの程度、この研究所に来ているかを調べたかったのがきっかけである。軽い気持ちで作ったJJYリピーターは十分な出力があるはずなのに少し離れるとノイズっぽくなって受信が出来なくなる。このままではリピーターをかなり時計に近づける必要があり実用性が低い。
受信出来なくなるのは、本家のJJY電波(40khz)と干渉しているからだと思われるが、本当に干渉しているかは単なる推測で確かめたわけではない。リピーターを60khzにすれば解決するのかも知れないが、そうなると受信側も対応が必要で面倒だ。
こういうことを検証するには、何と言ってもスペクトルアナライザーが一番である。来ている電波を適当なアンテナなどで受けてスペアナで調べれば一発で解決する。しかし、スペアナは、オシロに比べると中華の安値革命がまだ起きていないと見えて、どれも高価である。いくら安くても10万円近くはする。
参考書などを手に入れて、少しまともに調べ始めたのだが、長波帯までカバーするスペアナはやはり本格的なものでなくては無理で、そういうスペアナは50万円以上する。PCにUSB接続するハンディなものでも100万近くするのはざらで、とても手が出せるものではない。
どうしたものかと考えていたら、そのうちウェブ上で恰好のものが見つかった。サウンドカードのアナログ入力を利用したPCで動くソフトウエアのスペアナである。実際に動かして、JJYの電波をとらえている記事も複数見つかった。
Spectrum Labというのが定番のようだ。主な測定対象はオーディオ帯域のようだが、最近のサウンドカードはスーパーオーディオCD(SACD)の普及で、長波帯(40Khz)くらいは軽くカバーしているようだ。当研究所のメインPCのサウンドカードも48khzサンプリングで、何とか聞こえるのではないか。
Spectrorum LabでPCサウンドカードのスペアナを狙うも失敗(10/2/2018)
早速、このPCのフリーのスペアナソフトSpectrum Labを使わせてもらうことにする。ドイツのアマ無線家(DL4YHF)の開発で、凝りに凝った機能がてんこもりである。いかにもドイツ人らしい緻密な構成だ。アマ無線家御用達のようで、多種多様な使い方の紹介があり、何から始めて良いのか全く見当がつかない。ただ、わずかだが日本語の解説ページがある。
しかし、日本語でも専門用語が多く理解するのにひと苦労だ。幸い、このソフトでJJYを受信しているサイトがあったので、それを頼りに導入を進めた。ダウンロードは順調に終わり、動作させると画面上に一定の範囲の周波数帯域の受信スペクトルが出始めた。
全体の電波の受信スペクトルが時系列で画面上を滝のように流れて行く(WaterFallと呼ばれる)。素晴らしい。しかし設定が難しくて、JJY電波の40khzあたりの受信帯域になかなかならず、エラーになることが多い。
しかも、やっとのことで帯域の設定が出来ても、肝腎の電波が出てこない。念のため、埃を払って自作のSG(シグナルジェネレーター)を持ち出して、その出力をアナログ入力につなぐと20khz以上では出力が消える。
そのうち大変なことに気が付いた。現在のメインPCのサウンドカードは、古い、ゲームポートがまだついている48khzのCreativeのサウンドカードである。48khzサンプリングで見える周波数はその半分の24Khzであることに今更のように気が付いた(シャノンの定理)。
道理でSpcetrum Labの画面では、24khz以上のホワイトノイズが綺麗に下がっているわけだ。やれやれ、ハードウエアがサポートしていないので、40khzの受信は、この手持ちのサウンドカードでは無理なのである。暫し呆然とする。
サウンドカードを新調するもこれも受信せず(10/7/2018)
こういうところで簡単にやめてしまわないところが所長の取柄である。漱石の「坊ちゃん」ではないが、若いころから、これで苦労している。負けず嫌いとも言うが、この年になってこの性格が自分にとって良かったかどうか長期的に判断すれば、どうみても赤字決算だ。
決して褒められる性格ではない。しかし精神衛生上は、間違いなくこちらの方がストレスは少ない。自分の気持ちに正直にこだわっている方が、色々なことを我慢して別の道にいやいや進むより、気分的にははるかに楽だからだ。
ということで、懲りずにネットで最近のサウンドカードの動向を恐る恐るリサーチする。折角、ソフトを入れたのだから、サウンドカードそのものを取り替えてやろうという算段である。すると、96Khzや192Khzサンプリングのスーパーオーディオのサウンドカードが次々に見つかった。
価格も3000円程度であることがわかった。10万以上するスペアナのことを考えればただのような安さだ。喜び勇んでサウンドカードをウェブでポチッた。アマゾンで注文して3日で届いた。いそいそと、これまでのカードをはずして装填する。
ところがどっこい、こいつがうまく行かない。帯域の設定は明らかに前のカードに比べれば楽になり、簡単に96Khzあたりに設定がエラーなしに出来るようになったが、受信しないのである。自作SGの出力をパスコン(0.1μF)経由で直接アナログ入力に接続しテストを進める。
すると前のカード同様、24Khz以下では活発に波が出るのに、それ以上になると全くピークがでてこないことがわかった。その代わり、24khzより低い周波数を発生させていると、高調波の形で、派手に40Khz以上の波形が出始める。
何ということだ。こいつもアナログ系はどうも24Khzを境にLPFをかけたように感度が極端に下がる。もしかすると本当に音声帯域のためのLPFが付いているのかもしれない。
ちゃんとLPFのカットオフ周波数は100Khzになっていた(10/10/2018)
こうなると、もう止まらない。高額でないにしろ新しいカードを準備したのだ。このまま黙って引き下がるわけにはいかない。
サウンドカードをもういちどPCスロットからはずして、オーディオジャック近辺のプリント配線を、実体顕微鏡を使って調査する。もしかしたら、このアナログ部分にCRフィルターがかかっているのかもしれない。それなら、このLPFをバイパスしてやれば良い。
プリント基板をいじろうという大それた目論見だが、乗り掛かった舟である。このあたりの表面実装部品は、1608程度の大きさなので、何とか手ハンダで修正が可能だと思う。
20倍の実体顕微鏡で調べたところでは、確かに、オーディオジャックから音声チップに入る前に、それらしいアナログ回路がついている(写真の赤丸で囲ったところ)。Line もMicの入力もどれも、一段のRCフィルターがついているようだ。
配線の済んだCRの定数は正しく測定することは出来ないはずだが、秋月の精密級LCRメーター(LE5000)は、2点間の合成LCRを出してくれるという触れ込みなので測ってみる。何かもっともらしいCR値が現れた。得た値をウェブの早見表ソフトに入れカットオフ周波数を調べる。
測定できた定数は、LineもMicも違った値だったが、奇しくも2つともカットオフ周波数は100Khz近辺で、96khzサンプリングというスペックと符合する。ちゃんと通しているように見える。
さてどうしよう。このCR部分が本当にLPFになっているかどうかの確証が得られないまま、このカードの配線をいじる勇気は生まれてこない。この方法は少し棚上げにするしかないか。
高周波増幅回路の横道に入る(10/12/2018)
ウェブには、電波時計の受信モジュールを使うのでなく、スクラッチからJJYの受信機を自作して受信に成功しておられる方の記事もいくつかある。その中には、FETを使った高周波リニアアンプの回路図も載っている。
そうか、アナログ入力の前にアンプで増幅しておけば電波が見つかるかもしれない。アンプの回路はとても簡単である。しかも使用する高周波用のFETは、2SK241といって秋月でももう売っていない絶滅危惧種なのだそうだ。これは横道に入るのに十分な魅力的な話である。
本来の目的に向かっているかどうかわからないが、急にアンプが作りたくなった。ウェブを探し回って、本来の定番2SK241(東芝製)の完全互換品、2SK439(日立製)が、あのAitendoで売っていることを発見し(¥120)、これだけのために、Aitendoに足を運んだ。
高周波なので本当はハンダ付けで作るべきだろうが、とりあえずブレッドボードに配線を短くして組んでみる。回路はここを参考にさせていただいた。簡単な回路なのですぐ完成した。電源は、リチウム電池である。
アンプそのものの増幅率は、SGで波を出し、オシロで入出力をモニターすれば実測可能だ。おお、これは簡単に測定できた。発振もしない。ただ中波帯(1Mhz以下)では増幅率は30倍近くあるが、1Mhzを超すと、どんどん増幅が頭打ちになる。
まあ、中長波帯では数十倍あるので、早速、回路をサウンドカードの前段に接続しテストしてみる。残念。やはりこの程度の増幅では、リピーターの40khzも本来のJJYも受信不能であった。
さらに中華SDRドングルを買ってしまう(10/16/2018)
八方塞がりである。何をやってもうまく動かない。しかし、ここまで無線に目覚めてしまったので、このまま引き下がるわけにはいかなくなった。あきらめきれず色々調べているうち、さらにJJYを受ける方法があることがわかった。ワンセグチューナーのドングルである。
夢中になってウェブを探索する。これまで避けて通ってきた道なので、RFの世界は知らないことが多くて興味が尽きない。スペクトルアナライザーに関連したところでは、ワンセグのテレビを視聴できるUSBドングルが流行っているようだ。
たったの20ドル近くで高性能のデジタルレシーバー(Software Digital Radio)が手に入る。本来は欧州仕様のTVワンセグチューナーのドングルだが、これも欧州のアマチュア無線家が開発したソフトを使うと、FM受信機や、航空無線の傍受用に早変わりし、VHFのスペアナにもなる。
調べているうち、VHF帯だけでなく、長中波やHF(短波)も聞けるオールバンドラジオになることを知った。ふーむ、これならJJYもこれで聞けるかもしれない。
このあいだのCNCマシン同様、同じような形をしたドングルが市場に出回っていて、やたらと種類が多い。代表的な、というよりオリジナルはRTL-SDRと呼ばれるドングルのようだ。色々調べた結果、ドングルではなくHF帯も受信できるソフトウエアラジオのセットを注文した。これもアマゾンで発注して3日で届いた。
アンテナを普段使っているTV/FM用の同軸ケーブルにつなぐと、FM放送などは簡単に受信が出来た。長波帯の受信を試みる。しかし、残念なことに、こいつも1000Khz以下は極端に感度が下がる。VHFは快調に受信するが、HF帯はまともなアンテナをつけなければ無理なようだ。
スペック上は100khz以上ということで、受信方式はダイレクトサンプリングなので、少し感度が低いということをあとで知った。
はてはHFコンバーターも発注(10/20/2018)
もう際限がなくなってきた。前から秋月で気になっていた高周波用の同軸コネクター関連のパーツを手当たり次第にウェブでポチっている。まず、SMAコネクターまわりが気になって、ケーブルやコネクターを買い込む。
安いので、知らずにリバースSMAのケーブルを買って、刺さらなくてあせって、あわてて変換プラグを注文したり、FケーブルからSMAの変換プラグ(厳密にはインピーダンスが合わないので国産にはない)を発注したり、はては、同軸ケーブルの圧着工具(安い中国製)まで注文したりして、もう錯乱状態である。
そのうち、ダイレクトサンプリングではなく、スーパーヘテロダイン方式(だと思う)のHFコンバーターがアマゾンに出ているのを発見した。これなら長波帯までカバーしているので受信ができるかもしれない。
完成品は少し高いが(¥6800)、キットでも頒布されていることがわかった(半額)。少し迷ったが、高周波基板の勉強のつもりでキットで手に入れることにした。日本の個人の方が開発されているというのも心強い。
メールで申し込んだら、すぐ返事があり、お金を振り込むと3日も経たないうちに家に届いた。アマゾンに頼んだ諸々の部品や工具はまだ届いていないというのに、驚くべき速さだ。
封筒を開けてみて、予想通りの細かい部品に、いささかたじろぎ、これまでのようにすぐ制作にとりかかる余裕が生まれてこない。そこで、このブログの記事を出した後、一度気分を落ち着かせてから着手することにする。
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